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炎628



一人の老人が、姿の見えない少年を叱っている。
少年は戦場跡の茂みに隠れ、砂地から銃を掘り出そうとしていた。

敵国に占領された村で、少年は武勲を立てたかった。近くの村に住んでいる同じ年頃の少年たちは皆、抵抗軍に入って戦っている。
間もなく少年――フリョーラは、みごと銃を掘り出すことに成功する。
純朴な顔立ちに少年らしい無垢な笑顔を浮かべて、フリョーラは、嘆く母親と幼い二人の妹に別れを告げる。向かう先は抵抗軍の基地。

「獅子は我が子を戦尋の谷に突き落とす」というが、人間の世界にも通過儀礼は存在する。
少年は幾多の苦難を乗り越えてこそ、大人の男へと成長できるのだ。
フリョーラは自らそれを望んでいたのだろう。敵であるドイツ兵を打ち倒し、一人前として認めてもらいたい。
しかし戦場は、何も知らない少年の無邪気な夢をズタズタに引き裂き、青春を地獄巡りへと導いていく。

映画「炎628」は、1943年ナチス・ドイツ占領下の白ロシア(現在のベラルーシ)を舞台に、
反乱遊撃隊(パルチザン)へ入隊した少年の視点から戦場を描いた作品。
原題はヨハネの黙示録からの引用で「ИДИ И СМОТРИ」(『来て、見よ』)
監督のエレム・クリモフは本作のタイトルを「ヒトラーを殺せ」にしたかったらしい。
その本当の意図は映画を最後まで観ればわかるのだが、あまりに直接的な額面のためにボツになったという。

※ 以下、結末に触れています。

映画は少年の視点に徹底して寄り添う。
フリョーラが爆撃を受ければ、音響にそのままノイズが発生し、映像に纏わりつく。
彼が情緒不安定なときには、唐突かつ非現実的な描写がなされ、画面も歪なテンポを刻む。
苦しみに悶えるシーンでは、泥に塗れてもがく彼を長回しで延々と見せつける。
登場人物の表情の多くは正面からのクローズアップで捉えられ、ありとあらゆる残酷な対比が突きつけられる。

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戦時下の山村の生々しい雰囲気と、絵画的な美しいショットが絶妙に融合したフィルムは、
夢幻のようなゆらめきと、耐えられないほど凄烈な世界を内在している。

ブログ用

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自分は、今作以上に強烈で、恐ろしい映画を観たことがない。

初恋も知らなかったフリョーラ。映画が進むにつれてその瞳は色褪せていき、最後には顔に深い皺が刻まれていた。まるで老人のように――

映画の最後、憎しみに任せ、フリョーラはそれまで一度も撃たなかった銃で、ヒトラーの肖像画を撃ち抜いていく。
その度、ヒトラーの記録映像が映し出され、逆回転する。
時代を遡り、やがて、母親に抱かれた赤ん坊のヒトラーの肖像画までたどり着いた。
何も知らないあどけない顔と、吸い込まれるような無垢な瞳……
なぜ、人は自ら地獄を作り出してしまうのか。いったい何が、人々を殺し合いに向かわせてしまうのか。

子供からすべてが始まる。貴様らの民族に未来はない。共産主義は下等人種に宿る。根絶しなければならない

故郷に積み重ねられた死体の山。笑いながら老人を焼き、女を犯し、子供を殺すドイツ兵たち。
「こいつらは本当に同じ人間なのか?」女子供ごと教会を焼き払う兵士たちを見ながら、フリョーラも観客も思う。
神がいるのなら、一刻も早くこの鬼畜どもに雷を下すべきだと。
だが果たして、この世に清廉潔白な国などあるのだろうか? 
歴史を顧みれば、どの民族だって、規模は違えど虐殺を行っている。
(一説には、当時のソ連政府には思惑があり、白ロシアをはじめとした政府が重要視していない地域を、国民感情を煽るためにあえて攻めさせたという)
人間じゃないのではなく、人間だからこそ、ここまでのことができるのか。

動物たちは素知らぬ顔で森を闊歩する。騒がしい人間たちを尻目に。

しかし、赤ん坊のヒトラーを、フリョーラは撃たなかった。
この瞬間、映画はプロパガンダを超越する。
何が正しいのかはわからない。だが少なくともフリョーラは、感情やイデオロギーに惑わされて、無力な赤ん坊を殺したりはしなかった。
現実もモラルも一枚岩ではあり得ない、欺瞞に満ちた残酷な世界のなかで、ヒトという生き物はあまりに愚かで弱い。
だが、思いやりと優しさもまたヒトの持つ真実ではないのか。
フリョーラの選択は、希望というにはあまりにか細いけれど、歴史や思想うんぬんを超えて目指すに足る、確かな道標であると思う。

けれど、もう一つ確かなこともある。過去は巻き戻らない。失ったものは還ってこない。
フリョーラはあまりにも多くのものを失ったし、あまりにも多くのものを見てしまった。
少年は再び銃を取り、パルチザンと共に暗いロシアの森へと消えていく。
我々観客はその背中を見送ることしかできない。
しかし、彼が間近に観た世界は永遠に焼きついている。
それは、人が愚かである限り、決して忘れてはならないものだから。
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Author:クロサキ
クロサキといいます。以前はmorganeと名乗っておりました。
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