アマリリス

人は皆、息をする。
与えられた世界の中で。
この美しいキャッチを、作品を読み終わったあとに扉絵とともに見返すと・・
「サムライうさぎ」「月・水・金はスイミング」の福島鉄平先生の最新作。
現在最新号の「ミラクルジャンプ」に掲載されているのですが、品薄でなかなか手に入らず、先日ようやっと読みました。
いやもうね、とりあえず感想を一言書きますけどね。
神
※以下、内容に触れています!
BLものというだけならともかく、主人公が女装少年だと聞いて「え?あんなにピュアで瑞々しい男女間の恋愛を繊細に描いていた福島先生が!?」と驚愕し同時に「あのキュートな絵で背徳的なものが読めるなんてワクワクが止まりませんなぁげへへ・・」と完全に下卑た姿勢でいました。
ジャンルとしては、てっきりセクシャルマイノリティを題材にしたコメディだと思っていたんですけど、実際に読んでみれば・・こんなにも胸をえぐられるような内容だとは思ってもみませんでした。
萩尾望都の漫画を初めて読んだ時と同じくらいの衝撃。
前作「月・水・金はスイミング」「反省してカメダくん」と同じく、モノローグによりお話が進んでいく。
ただし今回はナレーションではなく、他でもない主人公の男の子が語り部となっています。
主人公の少年ジャン=ルクレールは、活発な普通の男の子。
ある日突然、母親の借金のカタに女装パブに売り飛ばされてしまう。
酒・タバコ・金・変態嗜好に塗れた大人の世界に否応なく投げ込まれ、二度と会えないであろう母親と弟に思いを馳せ、不快感と悲しみに沈むジャン。
けれど学校に今までどおりゆくことは許された。
はじめは喜ぶジャンだったけれど、自らの境遇と周囲とのギャップからやがては居心地が悪くなり、登校拒否に陥ってしまう。
そんな彼が、楽しみにしていた本を買いに外へ出たとき、他の学校の、顔見知りの少年と鉢合わせする。
彼の名前はポール。
同じサッカークラブにいた男の子で、サッカーがすごく上手い。でも笑っているところを見たことがなくて、あんまり話したこともなかった。
でもこのことがきっかけで、自分が見えていなかったポールのいろんな面を知り、彼と親しくなって、彼の家に遊びに通うようになる。
お店でも学校でもない「行くところ」を見つけたジャン。
ポールはすごくいいやつで、クラスメイトたちよりもキラキラして見える存在だったけれど、ふしぎといごこちが良かった。
「友だち」を見つけたのだ。
けれど、店とポールの家を行き来する内に、ジャンはまたしても環境のギャップと、そしてあることがきっかけで芽生えた激しい葛藤とに苦しむことになってしまう・・
・・えー、とりあえず中盤までのあらすじを書きましたが、終盤にいくにつれ深まっていくジャンの心理描写が筆舌に尽くしがたいほどの素晴らしさで、彼に恥ずかしいぐらい感情移入してしまっていたことを告白します。
親しくなるにつれて厭な面をみせるどころか、どんどんとその清廉さと廉直さを露わにしていくポール。
そしてジャンは、ポールのある姿を見て、自分と、自分のいる世界を再認識し、大粒の涙をこぼす。
彼が好き。でも自分はもう汚れてしまっている。離れるべきだ。彼を汚すわけにはいかない。でも、それよりも離れたくない。嫌われたくない・・そんなジャンが哀れで、愛おしくてたまらなくて、そしてなぜだかものすごく共感もしてしまって・・ジャンが涙を流すシーンでは、自分もポールのあの姿に胸を撃ち抜かれていました。
私自身はですね、あまり安定した家庭ではなかったにせよ、おおむね「普通」に、のらりくらりと生きてこれてて、ジャンのような厳しい境遇に置かれた子の気持ちを分かったように安易に想像することは避けるべきだと思うのですが、今作に限らず、漫画や映画を観るときには大抵、アウトサイダーな身の上のキャラクターに感情移入してしまいます。
(まあ、そういった見方や感性は別段珍しいものではないし、それに関して自分なりに見つけた理由と根拠はいろいろとあるのですが)
まあでも、個人的な意見を言わせてもらえれば・・というか読んだ人は誰もが思うことでしょうが、ジャンは全然「きたなく」なんかない、それどころかとても純粋な子なんですよ。
内清外濁としかいいようがない、それこそ自分なんかとは比べ物にならないくらい、ポールと同じくらい、もしくはそれ以上に「きれい」な人間なんです。
心根が純粋であるがゆえに「きれい」と「きたない」を賢く(都合よく)割り切ってしまうことができない。だからこそ苦しむ。
ジャンが自身に「きたなさ」を感じる度に、自身を追いつめて堕としていくほどに、その姿がとにかくいじらしくて切なくて・・
けれど、純粋で孤独な混じり気のない思いや気質は、ときに極端に振れ動き、思わぬ過激な行動として表れてしまうことがある。
(余談ではありますが「ぼくのエリ」のオスカーを思い出しました。)
最終的にジャンは、ある事から生まれたポールへの疑念をきっかけに湧き出る衝動に身を任せ、それによってふたりの関係は決定的に切れてしまう。
そして、彼の切なすぎるモノローグをもって、このお話は幕を引くことになってしまうのですが・・
この悲しく苦い余韻を覚えた時点で、自分はこの作品を傑作と称することに迷いはないです。でも、物語に入り込んでしまったが故に、どうしても苦しいのもまた事実。
つまりはこういうことですよ。
ジャンもポールも、こんなにこんなにいい子なのに!
なぜこの二人がこんな末路に行きつかねばならなかったのか。二人がともに道を歩む姿をなぜ見られないのか。
作品のクオリティなんてどうでもいいから二人を仲直りさせろ!
と、福島先生に詰め寄りたい気持ちでいっぱいです(笑)。
でも、この作品の中には決定的な悪役はいない。
ここがまた憎らしいほど良くできている。
作中登場する「悪人」に関しても、二人が分かれてしまう悲しみとはもちろん、二人が出会った喜びとも切り離すことはできない。
やりきれない人間の業とすれ違いの中で輝いていた「きれいなもの」
それはポールの祈りなのか、それとも・・
題材のきわどさに惑わされがちですが、これまでの延長線上にあるまごうことなき福島鉄平の作品であり、そしてそれでいて確かにネクストレベルの境地に達しているすごい漫画でした。
自分が生きているあいだ、この二人を忘れることは決してないでしょう。
そして、またいつか会いたいと切に願います。
余談ですが今作、お話そのものや各所のディテール等、全体的に宗教的なモチーフを感じました。
ジャンの抱える葛藤は「緋文字」を思わせるし、ポールの名前って聖パウロ(PAUL)からもじってますよね、たぶん。
それに関連して「トーマの心臓」も思い出したり。
で、驚愕すべきことにですね、今作、読み切りではあるんですが、連載の形をとっているんですよ。
つまり一話完結のオムニバス形式で毎月連載されるみたいなんですね。
このクオリティの作品を毎月読めるなんて・・・!
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Entry ⇒ 2014.05.29 | Category ⇒ 漫画 | Comments (3) | Trackbacks (0)