読み切りとはいえ、やはりというかネット上ではそれなりに多くの方から評価されているようで、検索すれば、いくらでも優れたレビューをしてらっしゃるサイト様(それも漫画に関するちゃんとした知識のある、リテラシーの高い方々によるもの)がたくさんあるのですが、どうしても書きたいので書きます。
まず、本作のあらすじですが、最初の1ページ目でのナレーション。
女の子は有川マドカさん
男の子は千葉オサムくん
同じクラスの中学三年生
通ってるスイミングクラブも一緒
でもそれだけもうこれだけで、ほとんどが説明できてしまいます(^^ゞ
ま、もうちょっとだけ突っ込んで書くと、
卒業を間近に控えた3月の頭、放課後スイミングスクールに向かういつものバスの中。あることがきっかけで、有川さんの意外な一面を知るオサム君。
有川さんは、勉強はよく出来るけれど、運動はさっぱり。
休み時間や放課後にも、クラスのみんなとはあまり遊ばず、一人でいることが多い。
自分とは正反対な女の子。
「クラスとスイミングが一緒なこと以外は、自分とはなんの関わりのない人だ」
ずうっとそう思っていたオサム君。
有川さんだって、きっと同じように思っているはず。
けれどある日、いつものスイミング帰りのバスの中で、有川さんとお友達との話を聞いてしまう。
「そういえば、あたし今日でスイミングが最後なの」
ほぼ全編が、ナレーションと、主人公であるオサム君のモノローグだけで進んでいきます。
進んでいく。と言っても、全43ページの作品中、二人の間で何かが起きるとか、仲が発展するとか、そういうことはありません。ラストでほんの、ほんのちょっとあるだけです。
ある女の子のことを意識し始めた、ある男の子の心の変遷を、当人の独白とささいな出来事を通して描いているだけの漫画。
でも、そこがスゴいんですよ。
絵に描かれている、キャラクターの表情とコマ割り、ささいな風景や構図。その一つ一つに意味がある。
それだけなら漫画として当たり前のことですが・・・そのひとつひとつが、とても瑞々しくて繊細なんです。
セリフだけで説明してしまったら、一気に崩れてしまいそうな、オサム君の、十代ならでは、思春期ならではの、良い意味で生々しい「少年の感情」。
多かれ少なかれ、誰しも経験したことのある、とりとめのない、けれどかけがえのない感情が、「行間」で表現されている。
いやもう、とにかくキュンキュン(死語)するんです。オサム君の言動や行動、有川さんとの距離感や構図にいちいち。読者にとっても話の中の当人にとっても、別段なんでもないことのはずなのに・・・
読んでいる内に「懐かしいなぁ」「そういうのあるある!」と、思わず頷いてニヤニヤしている、気持ち悪い自分に気付くというw
読者はオサム君の視点を共有してページを進めていくわけですが、男性だけでなく、女性でも、十分共感できる内容だと思います。
上記の通り、誰にでもある(あった)ささいな感情や瞬間が、絵の中に切り取られているので。
(よくよく読み返してみると、セリフ(ふきだし)は意外と多いのですが、そのことに逆に驚きました。そのぐらい、作中の様々なことが「絵」で表現されている)
実際のところ、この漫画はきちんと手に取って読んでもらって、作品に触れてみないと大事なところは解りません。
いや、それは多かれ少なかれ全ての漫画(および創作物)にいえることですが、この作品は特に。
そんな作品なので、書きたいから書くと取り上げておいて、どこまでどう書いていいのか、正直分からないのですが・・・
とにかく、多くの方に読んでもらいたいです。ホントに。
誰にでもある、とりとめのないささいな、でも宝物のような感情や瞬間が込められている、まさに珠玉の作品。自信をもってオススメします。
ちなみに、個人的にいちばんキュンキュン(死語)したシーン。
冒頭のスイミング帰りのバスの中、有川さんがお友達と話してるときに「おにぎりの具は何が好き?」って話になるんですね。
挟んで向かい側の席に座っているオサム君には、当然その会話が聞こえていて、すかさず「オカカ!」と心の中で答えます(あるよなぁw)。
すると、有川さんも「オカカ」と答えるんですよ。
それを聞いた時の、オサム君の、嬉しそうというにはささやかな、あのなんとも言えない表情・・・・ああもうキュンキュンする!ニヤニヤが止まらん!
っていうかね、その時オサム君は、窓にもたれて外を見ながら、有川さん達の会話を聞いているんですが、絶対ガラスに写ってる有川さんを見てるよね!
ああああ可愛いなぁもう!
(・・・スンマセン(^^ゞ))
まぁ「共感できる」と書いてはいますが、こういう風にささやかながらも輝かしい少年少女時代を、実際に過ごした人が何人いるかは疑問ではあるのですがw
私はありません(爆)
オサム君やマドカさんと同じ中学生に戻ったとしても、自分も含め、可愛くないガキ共がいるだけっすw
そう考えると、この作品、題材だけで考えると実写でもできそうではあるのですが、やっぱり漫画だからこその部分も多いと思います。
人の感情や人生のその時々の一瞬を、ある種デフォルメをしているからこそ、ある程度生々しいからこそ、読者は共感できるというか。
アレですよ。『耳をすませば』にはニヤニヤできるけど、現実の中学生カップルなんて(以下略
登場人物にしても、まどかちゃんはもちろん、男の子のオサム君もとてもかわいいし。
でもそれは、福島先生の絵柄が比較的キュートで絵の技術が達者だから、というだけではなくて、それ以上に、オサム君の「男の子らしい可愛さ」を、漫画として、総合的にきちんと表現できているからだと思います。いわゆる「男の娘」みたいな、ナヨナヨした可愛さじゃなくて。やんちゃだけど好きな女の子の前では素直になれないみたいな。
この辺を実写でやると、どうしても嫌味な部分(違う方向の生々しさというか・・・)が出てきてしまうことが多いし、実際にその年齢の子役さんが演じるには、役者さん自身が自分の世代を客観視する必要があると思うし、同じようにやろうとすると、かなり難しいんじゃないかと想像してしまいます。
アニメだったら、中学生の役でもベテランの声優さん、または女性の声優さんがカッコ可愛く演じることもできるし。
まどかちゃんの、上品で育ちが良くて・・・でも澄ましたところがない。というのも実写じゃ難しそうだなぁ。
・・・なんだか全然関係ないこと書いてるな(^^ゞ
それにしても、二人は同じ私立高校に行くみたいですが、オサム君って勉強はどうなんだろう・・・ぶっちゃけできなさそうなんですがw
読んだ人にしか解らない所ですが、冒頭の、教室でオサム君が先生に当てられて沈黙しているコマと、体育館で跳び箱(11段!)を飛んでいるオサム君のコマが、有川さんの説明をしているナレーションとそれぞれ対になっているので、たぶんその意味でも二人が「正反対」なことを表現している・・・はず。
なのでオサム君は多分、勉強は得意ではないと思います(オサム君、違ってたらごめんw)。
っていうか私立って、私の住んでいた地域だと、ほとんど県立の滑り止め扱いだったので、金さえ積めば行けるみたいなイメージが・・・端的にいえば「頭の悪い人が行く所」という偏見が個人的にあったりします(^^ゞ
もちろん学校それぞれだし、地域それぞれでしょうが、世間一般のイメージとしてはどうなんだろう。
作中の時代設定は、イマイチ謎なんですよね。レトロな田舎町にも見えるし、現代といわれてもまぁ通用しそうではあるし・・・
・・・また関係ないことを(^^ゞ
なんていうか、そういう漫画なんです。普通に読んでいるだけでも面白いし、行間が多い故に、楽しく想像できる余地が沢山ある。
たぶんこれ、人気云々抜きにしても、連載はないだろうな。ストーリー的に。仮に連載決定したとしてもジャンプ向けかどうか・・・
いや、もしそうなったら嬉しいですけど。ジャンプ購読しますけど。発売日朝イチに買いに行きますけど。
なんにせよ、福島鉄平先生の次回作が楽しみでなりません。
福島先生は、中島諭宇樹先生や加地君也先生のアシスタントもしていたらしい。
中島先生、コミカライズも素晴らしいですが、オリジナル作品の連載待ってます。
今回の記事とは直接関係ないけど前書きで触れた漫画。こちらもとても素晴らしかった。第一話なんて鳥肌もの。