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父を探して


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美しくて、混沌として、あたたかくて、残酷で、それでも優しい――
セカイが結実するラスト10分。

以下、ネタバレしています。

あらすじ:
ブラジルのインディペンデントアニメ界の新鋭アレ・アブレウ監督による長編アニメーション作品。全編セリフなしで描かれ、普遍的な寓話でありながら、ブラジルの現実も切り取った作風で、2014年のアヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞にあたるクリスタルと観客賞をダブル受賞した。ある日、少年の父親は出稼ぎのためにどこかに旅立ってしまった。父親を見つけて、家に連れて帰ることを決意し、旅に出た少年を待ち受けていたのは、虐げられる農民たちの農村や、孤独が巣食う都会と、少年にとっては未知の広大な世界だった。少年は、行く先々で出会った大人たちや犬、音楽を奏でる楽隊の助けを得て父親を探していく。
(映画.comより)

冒頭、粒子の構造と連なりが、万華鏡のような美しさと緻密さで花開いていく。
原子レベルで見つめている視点から、どこからか聞こえる笛の音に導かれるようにそれはどんどんと拡大していき、我々人間に馴染み深いレベルの世界の大きさになってはじめて、主人公の少年が登場する。
この冒頭シークエンスはラストと対になっていて、見返えしてみると、今作の構造とテーマを既に語っていることがわかる。

繰り返されるミクロとマクロ――今作が「少年の目で見た世界」を描いていることは、冒頭の時点で(なんなら今作のスチルやイメージだけでも)ほとんどの人が了解するだろう。そこに意外性や斬新さはないと思う。
しかしいざ見終わったとき、今作の描こうとしていること――その普遍性、鮮やかさ、スケールの大きさ――に意表を突かれた人は多かったのではないだろうか。

出稼ぎに家を去った父を探して、少年は外の世界へと旅立つ。
老人や青年に助けられつつ、そこで直面するのは、生々しく非情な現実の数々。
人間は愚かで、社会は冷血で、芸術は暴力の前にはあまりにも無力で……

有り体に言って今作は「少年の目から社会の醜さと歪みを見つめ批評した作品」であり、それは間違いではないのだけど、実は物語上にトリックが仕掛けられていて、それは終盤に明かされる。
実は、作中で出会った老人と青年は、少年の未来の姿――つまり彼自身であったことが判明するのだ。
ここで映画は老人の視点に移る。身体が弱り仕事も失った彼は、故郷の樹に身を預け、その人生を終える……
なんて救いのない悲劇の物語なんだ……と思った直後、最後の最後にまた視点が少年へと戻り、今作が描こうとしたことが明らかになっていく。
作中何度も示される「樹」と「万華鏡」のイメージが、ラストで再び繰り返されるのだ。

そこで描かれているのは、少年を慈しみ、その身を自然に還す生命の輪廻であり、美しさも醜さも、すべての営みを包み込んで看取っていく世界の在り方そのものだった。

作中で描かれてきたあらゆる要素と、それを支える技術的な手法。そのすべてが、きわめて普遍的な寓話として結実するこのラスト10分の感動。その驚きと美しさ、そして果てしのない優しさは、まさに結晶のようにきらめいていた。

芸術は無力かもしれないが、芸術でしか訴えられない価値観があり、救い取れるものがあり、輝くものがある。
生命と世界への讃歌をこれほど繊細に、かつ鮮やかに示した作品が過去にあっただろうか。

というわけで、参りました。輝かしい受賞歴に恥じない至高の一品です。
『お嬢さん』もそうだけど、今年もことごとく劇場で傑作を見逃してるなぁ……
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レビュー ★★★★☆

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Author:クロサキ
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